社会の窓から

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日記2019.10.7:香港デモ・朝日新聞「天声人語」2019.10.7への反論

僕は、朝日新聞のファンです。基本的には、朝日・毎日・東京新聞の記事論調には同意しています(すなわち、読売・産經には同意できない)。

しかし、違う、と思うことは、はっきりと書きます。

10月7日の「天声人語」(最近新聞を見る機会が少ないのですが、たまたま病院の待合室で目にしました)には、何とも言い難い「違和感」を感じます。

確かに、伝えたい内容は整理され、論点が明確で、かつ疑問も呈している。100点満点の文章で、読んでいてスムーズに内容に同調することが出来ます(言いたいことは良くわかる)。

しかし、よく読んでみれば、言ってることは実に陳腐。本来は朝日の敵であるはずの、ネトウヨと同じこと言ってるような気がします。香港問題に関しては、日本の、どのマスメディアも、ステレオタイプ的な「空気」の中にどっぷり嵌って、しかし、いかにも少数派による「カウンター・カルチャー」(抵抗勢力)っぽく(朝日新聞の場合は格調高く)調理しているわけです。

【天声人語】 昨日に続いて、香港の話題である。デモ行進の最前列に行き、警察とデモ隊が衝突するのを取材した。催涙弾の煙を浴びてしまい、目が痛くてたまらなくなった。ホテルに戻ってラウンジで休んでいたら、5~6人の若者がどやどやと入ってきた。

【ミルク】 これは僕も同じですね。6月12日~17日は「現代ビジネス」で香港島の中心部(衝突現場からすぐのところ)に部屋をとって貰っていました。最初の頃はデモ隊の動きが判らなかったのだけれど、ホテルのフロントディスクの人がいろいろと教えてくれました。もちろん彼らは「デモ隊若者」の味方です(というよりも、しばしば「黒マスク」に変身します)。

ただし、「従業員」と一括りするのは違います。掃除のおばちゃんの多くはフィリッピンやインドネシア、彼女たちにデモ隊の話題を振っても、大抵無視されてしまいます。あるフィリッピンンの男性は、服装が警察に似ていたため、デモ隊若者によって長時間拘束されていました。僕が黒シャツ若者達から(抗議派の不利になるような群衆暴動写真を写してはならないと)暴行を受け、データの削除を求められてレンズを壊されたのと同じ日(7月1日)です。

北京から派遣された、某一流ホテルのスタッフは、デモ隊が罵声を浴びせ続けるホテルの傍らに佇んで、涙ぐんでいました。こんな傍若無人な振る舞いを、私は黙って見ていて良いのだろうか。彼らに身分を明かすと(本土人と分かると)、何をされるかわからない。とても辛い、、、と。

もっとも、モニカからの報告にもあったように、一日数万円の給料を得て、香港デモに加わって「大陸中国人も香港の自由政治を応援している」人(いわゆるサクラ)を募集したりしています。実際、モニカの友人の家族が募集に応じて香港デモに参加してきたそうです(後に参加がバレて年金支給が停止になった由ですが、笑)。

催涙弾の煙を浴びると、目と喉が痛くてたまらないですね。でも、そんな状況下でも、フィリッピーナたちは平気で(正義の黒シャツ隊と悪の警察がやりあっている)衝突現場の周りに屯して、トトカルチョなどに熱中しています。

ちなみに、「現代ビジネス」は、6月末以降は冷淡にも(笑)、一切取材に協力してくれなくなったので、自費で深圳の安ホテルに泊まって、毎回中国側から入境しています。

【天声人語】 黒いマスクに黒いシャツ、いかにもデモ隊という感じの彼らは、最前線から逃れてきたのだろう。ホテルの従業員と話し、奥の部屋で着かえさせ貰ったようだ。白い服などを身に着けて出てくると、もうどこにでもいる大学生だ。

「外には警官がいる、まだここにいたほうがいい」と従業員が声をかけてきた。若者たちはラウンジでジュースを飲み、しばらくして散っていった。

【ミルク】 「どこにでもいる大学生」が凶暴になって「正義のために当たり前」、それが怖いのです。彼らは、本当に日本人に対しては優しく、こんなに親切にしてもらっても良いのだろうか?といつも畏れ多く思っています。でも、ひとたび異なる意見を言うと、あるいは「見下す存在」(例えば英語が話せないとか、お金がないとか)ということが知れると、刃を露骨に向けてくる。 

【天声人語】 ときに政府機関に石を投げ、警官に火炎瓶を放る。そんな若者に眉を顰める香港人が多いかというと、どうも違うようだ。ネット上には、デモ隊を逃がすために車の運転を申し出る書き込みが多い。帰れなくなったら泊めてあげる、という呼びかけも。2047年、一国二制度の期限となるこの年のことを香港でよく耳にした。このまま中国に飲まれてしまうのか。「若者たちは自分の未来のために戦っている。彼らには彼らのやり方で戦う権利がある」と60代の民主主義議員が言っていた。

【ミルク】 僕は長い間、“天声人語”氏とは逆のことを考えていました。大半の香港人は、ここに例を挙げているように、(心の中では)暴動を起こすデモ隊の味方をしている、と思っていました。それはそうでしょう。2047年に完全に中国共産党の体制に組み込まれてしまうと、自分たちが、英国の政権下で恩恵を受けてきた「民主主義社会≒資本主義社会」既得権が消滅して(少なくとも分散して)しまう。「日本が正義」と信じ、鬼畜米兵をやっつけようと、お国のために命をささげる「特攻隊員」らを賛美応援する、第二次大戦中の日本国民と同じです。客観的に見て異常だと思いますが、今の香港では、それが「正常」なのです。

ところで、2047年といえば、まだ28年先のことです。22年前、約束の許に英国から中国に返還されたわけです。本来なら中国の体制の許に組み込まれても、文句は言えないはずです。

しかし、99年間の「西洋支配下」の間に、香港人の価値観は、中国のそれと変わってしまった。それで50年間の準備期間を置き、「一国二制度」という変則的な実験の下で、試行錯誤を重ねながら、いかに融和をしていくか、ということだったのではないでしょうか?

大半の香港市民は、自分たちの「既得権」の保守にしか目が行きません。自分や自分たちの未来のために戦い始めたのです。決して「皆」(両方)のためにではない。ISUSがイスラムの未来だけを考えて西側社会に戦いを挑んでいるのと、どこが違うのでしょうか?

イスラムにはイスラムのやり方があるはずです。中国には中国のやり方があるはずです。それらを認めずして、香港には香港のやり方がある、というのでは、赤ちゃんの駄々と同じです。

大半の香港市民は、「黒シャツ暴徒」に、自分たちの未来を丸投げしています。お国のために「特攻」に向かう、彼ら「暴徒」のおかげで、自分たちの既得権(大半の香港人にとっての自由)が守られるからです。

眉を顰める香港人は当然います。全体からすると少数です。でも、少数と言えども、かなりの数です。一割強と考えれば、ざっと100万人。

メディア(特に日本の)は、逆の方向から報道していくわけですね。眉を顰める香港人が多数だと思っていたら、実はかなりの人々が「黒シャツ若者」を応援している、と。

多数派は、「警察」「香港政府」「中国共産党政権」であり、自分たちは少数派のリベラルな抵抗勢力、巨悪に立ち向かう“いたいけな”小さな正義。そう世界に印象付けようということです。むろん、実際のところは、そちらの方が香港に於いては(日本からの共感も)多数派であるわけですが。

その大多数が、(香港に於ける)本当の少数意見を、「空気」や「同調」という力で押さえつけようとしている。

ただし、少数とは言えども、「空気」に同調せず、「自分たちだけの利益」を第一義とはしない、しっかりした考えを持つ本物の賢者、あるいは「香港の正義・自由」から疎外された弱者が、一定数いるわけです。そしてそれは、かなりの数です。でも「空気」の外にある。

「そんな若者に眉を顰める香港人が多いかというと、どうも違うようだ」と“天声人語”氏は言うのですが、そのような「空気」の流れに持っていくことで、「異論」が封じ込まれてしまっている、というのが現状のように思います。

【天声人語】 騒ぎで観光客が減り、ホテルやレストランには打撃だと聞く。安全な場所でなくなったとして外国企業が去るのでは、ともささやかれる。それでも今の香港では、自由を奪われるという危機感の方がずっと強いようだ。

【ミルク】 断言します。遅かれ早かれ、中国は基本的に香港を見放します。たぶん、本当は今すぐにでも放っぽり出したいのではないでしょうか。香港にあるのは、(中国本土に比べて)圧倒的に高い民度(皮肉で言っています)と、(相対的)な富、それだけです。

本土に比べて一万分の一の面積の香港には、なんの資源もありません。ブルネイとかクエートとかのような石油も出なければ、シンガポールのように地の利に恵まれているわけでもありません。リヒテンシュタインとかモナコのような由緒ある王国でもないし、スイスやタヒチのように天然の観光に恵まれているわけでもありません。   対外的な面子と、国内の派遣争いがあるでしょうから、簡単に終結は出来ないでしょうが、態勢さえ整えば、以外にあっさり香港を手放してしまうのではないか、と僕は思っています。

旧主宗国の英国が本気で手を差し伸べてくるとは思えません(それでなくても英国自体がヒッチャカメッチャカになっていることですし)。香港はアメリカに助けを求めている(そのなりふり構わずの様は滑稽でさえあります)訳ですが、アメリカは対中国の戦略にかかりっきりで、香港(コマとしては利用できるでしょうけれど)に手を貸すなど、そんなにお人よしではありません。まあ、(台湾を別とすれば)頼れるのは日本だけでしょうね。

香港人にとって、自分たちの自由を奪われる、すなわち既得権を剥奪されるのは、そりゃ嫌でしょう。

でも、「自由」は、一か所だけに宿ってはいない、、、。そのことを、「頭のいい人(エリート)達」には、もう少し勉強(受験勉強の延長ではなく裸一貫での現地体験)してほしいです。

香港の「民主の女神」とかいう人(周庭さんだっけ)は、「流血を先導しアメリカに逃亡してリッチな生活を送っている」柴玲さんとそっくり。

「第二の天安門」を作り出そうと(ある意味「天安門事件」自体、改革派にとっては、成功裏に終わっているように思います)必死になっている。

天安門事件のとき、日本からの留学生たちは、(僕の知る限り)皆、「中国学生頑張れ、中国共産党の悪に負けるな、の“いかにも改革派”でした。その人たちが、今の日本の中国メディアの中軸となっている。第二の天安門が完結するまで延々と駄々をこね続けようとする香港の若者共々、“美しい日本”は“美しい”まま、世界を欺き続けて行くのでしょう。